INTRODUCTION(はじめに)
IRBCは全世界共通の競技会において,競技者に有用なルールブックを作ることを1996年に始めた.
最初に私たちは,誰が一番かを決める最良の方法は何かについて議論した.議論を重ねたが,その答えは見つけることはできないと判断した.そこで我々は競技者,ジャッジ,主催者に最大限の選択と自由度を与えるルールブックを書くことにした.9つのルールは絶対的なもので変更することは出来ないものである.指針(ガイドライン)は競技者に事前に周知させるならば変更可能である.
従って,例えばオーガナイザーが最良の規定競技者を選ぶのにはもっと良い方法がある,とか競技の風速が適当でないと感じたときは,最適な指針に変更できる,より良くするために変更するのが適切と感じたら他の人達もそれを真似するであろうし,やがて改正案が採用されることになろう.一方,もし変更案が認められがたいものならば却下される.ダーウィンが言うように,進化(進歩)とは最適なもの(最良のもの)が生き残っていくことである.
この本では,定義,ルール,指針(GUIDELINES)のみについて述べている.その目的は,このスポーツをフライヤーや観客にとってより魅力的で感動的なものにするためである.したがって,ジャッジの方法や規定競技の図形などの詳細にまで踏み込んではいない.それらについては,しかるべき時期に発行される.それまでは,従来の採点方法や規定図形(COMPULSORY)が適用される.
IRBCはスポーツカイトルールの発展に寄与してくれた全ての方々に絶大なる感謝を申し上げます.特にこの新ルールをつくるにあたり,力を貸してくれた方々に感謝致します.私たちは,競技者,ジャッジ,主催者,そして関係者の方々が我慢強く新ルールブックを待っていてくれたことに感謝し,私たちと同様に,これがスポーツカイトの新時代を切り開くものになることを期待します.
IRBC 委員会メンバー 1998年5月
AJSKA |
高橋 勝→江見健二朗 |
湧沢秀夫→平間宣明 |
A K A |
Sherrie Arnold |
Eric Forsburg |
STACK |
Helmut Georgi |
Paul Reynolds |
I. DEFINITIONS(定義)
- 裁定委員会(訳注:A Sanctioning Authority---訳語がしっくりしない)は AJSKA,AKA,STACKで構成される.このほか,裁定委員会の満場一致の承認を得た団体は裁定委員会メンバーとする.
- IRBCはそれぞれの裁定委員会(団体)から2名づつの委員で構成される.
- SKILL LEVEL(クラス分け) はそれぞれの裁定委員会(団体)が規定するが,最小限ノービスとマスターとする.
- 個々の競技は,マスターデュアルラインチームバレー,エクスペリエンスマルチライン個人規定等と表記する.
- 一つのクラスは,1,2 あるいはそれ以上の同一レベルの種目からなる,つまり,一人の 競技者は全ての種目を行わねばならない.例えば,マスター個人デュアルラインバレーとマスター個人デュアルライン規定を合わせて,マスター個人デュアルラインクラスとなる.
- 数種目から成る競技会は同一会場で1日もしくは連続する数日間で終えること.
- チーム(TEAM)は3人以上で構成する.
- ペア(PAIR)は二人で構成する.
- 個人(INDIVIDUAL)は一人である.
- 競技者とは種目に規定されたチームあるいはペアあるいは個人を指す.
- デュアルラインカイトとは二本ラインで操作するもの.
- マルチラインカイトとは三本以上のラインで操作するもの.
- トレインとは3機以上のカイトを一まとめに飛ばすこと.
- テイルは付属物でカイトの一部とは見なさない.
- 調停委員会(SUPERVISORY COMMITTEE) はオーガナイザー・ジャッジ代表(チーフジャッジ以外)と競技者代表で構成する.ジャッジ代表はジャッジメンバーから,競技者代表は全競技者がパイロットミーティング時に選定する.競技者代表は一人のみであるが,必要なときには他の競技者に意見を求めることができる.
II. RULES(ルール)
これらについては,いかなる状況においても競技役員が変更してはならない.
[注: 絶対に守らねばならぬ,ということ]
- ルールあるいはルールに関連する指針を破った競技者にはペナルティが課せられる.ル ールや指針に具体的にペナルティが明記されてない場合は,その行為の重要性に応じてFD,ヘッドジャッジ又はチーフジャッジは,自由裁量で競技者に対し警告あるいはペナルティあるいは失格を与えることができる.競技会そのものへの失格処分には チーフジャッジの同意が必要である.
- 常に安全性が最優先されねばならない.危険なフライトにはヘッドジャッジの自由裁量で,その種目あるいは大会そのものに対し失格とする処罰もある.加えて,最初のパイロットミーティングが行われたときから競技終了(チーフジャッジが定めた時)までの間に,カイトが指定されたフィールドの境界線を越えたときはその種目は失格となる.又競技中に競技者の体が境界線を越えたときは,その競技は失格となる.
- 競技者は常にスポーツマンらしい振る舞いをすること.
- いかなる種目においても最低三人のジャッジをおく.ジャッジのうち一人をヘッドジャッジとする.その大会におけるチーフジャッジはそれぞれの種目のヘッドジャッジ達が指名する.チーフジャッジはヘッドジャッジを勤めることはできるがその大会の競技者にはなれない.
- それぞれの種目にはFDをおく.
- 競技役員はジャッジ以外の任務を他の人に委任することができる.
- 競技者はその種目の競技フィールドにいる間に他の人からアドバイスを受けることはできない.
[訳注:疑問: 最初のセッティングの際のウィンドウィンドウチェックの際に,境界線との距離を確認のためヘルパーやフィールド外の人に聞くのは反則か.競技中にヘルパーあるいはフィールド外の人が境界線ぎりぎりに寄ってしまったときジェスチャーなどで注意を与えるのは反則か.従来,後退しすぎたときFDは境界線までの距離を伝えてくれたが,これは無くなるのか.]
- どの競技者も不公平な扱いを受けていると感じたときは,適切な時間内にその種目のヘッドジャッジに抗議をすべきである.競技者がヘッドジャッジから満足のいく答えが得られなかったときはチーフジャッジの意見を求めるべきである.それ以上の対応を求めるときは,調停委員会に提訴する.この際の抗議は書面で行う.それでも抗議に対する満足(納得)が得られない場合は書面でそれぞれの裁定委員会(AJSKA)に提出する.
- 競技者あるいは競技役員は,ある競技役員がその立場を悪用(乱用)したりスポーツマンらしからぬ振る舞いをしていると感じたら,調停委員会に訴えるか,書面にて裁定委員会(日本ではAJSKA)に訴える.調停委員会はその訴えが妥当と判断したときはその役員に注意を与える.この場合,調停委員会は後日AJSKAに書面にて報告する.AJSKAはその役員に対してしかるべき処置を行うことができる.それは,しかるべく期間,役員就任の権利を剥奪する処置もありうる.
- ペア/チームのメンバー構成
ペア,チームのメンバー構成はそれぞれの裁定委員会(AJSKA)に登録する.登録方法はAJSKAが定める.
チ−ム構成は競技会の最中(例えばバレ−と規定で)や,競技会毎に変わっても良い.ペアの構成は一つの競技会中で異なってはならないが,他の競技会では変わってもよい.
下表は、競技会において登録メンバーのうち変わっても良い人数と,最小限出場していなければならないメンバーの人数を示す.
登録メンバー数
|
変更可能人数
|
最小出場人数
|
2 |
1 |
2 |
3 |
1 |
3 |
4 |
2 |
3 |
5 |
2 |
4 |
6 |
3 |
5 |
7 |
3 |
6 |
8以上 |
4 |
6 |
III. GUIDELINES(指針)
これらの事項は,競技会の開始30日以上前に変更事項,許容範囲,削除事項を競技者に伝えずに変更することは出来ない.
[訳注: 各国の実情,各地域の実情にあわせて変更できることを示している.多分,その中でもAJSKAとして全国統一的に変更する事項と,各地域,競技会毎に変更できることが示されることになろう.いずれにせよ,変更する内容は競技会の開始30日以上前に公示されなければならない,と規定している.]
- 概要説明会(INTRODUCTORY BRIEFING)
競技会を始める前に全ての競技者,ジャッジ,役員が集合すること.最低限,チーフジャッジは規定されているルールや指針を説明し,競技進行順や競技に関する質疑応答をする.また,調停委員会の競技者代表を選出するのに十分な時間を設ける.チーフジャッジの判断で,数日間にわたる大会の場合はこれを毎日行ってもよい.
- 競技説明会(DISCIPLINE BRIEFING)
種目の開始前には(原文:Before any discipline starts,) ヘッドジャッジはその種目に関する説明会を行う。 [訳注: 種目開始前毎にいちいち、ということかな?]
最低限,ジャッジ・LJ・FDの紹介,ステージイン・ステージアウトの説明,指定マヌーバーの発表バレー用のテープ収集をおこない,その種目についての質疑応答をする.
[訳注: A,B合わせて従来の開会式,パイロットミーティング,ジャッジミーティングに相当すると思うが,区分して表記する意図が不明.]
- 結果報告会(DEBRIEFING)-----[訳注: 反省会と言うべきか]
大会の最後に全ての競技者,ジャッジ,役員が集まりチーフジャッジの進行で結果報告を行う.この目的は,いろいろな人達との討議を活発にし,次の大会をより良いものにするために,良かったことは反映させることである.もし,ジャッジあるいは競技者から要求があれば種目ごとの結果報告をヘッドジャッジの進行で行う.
- フライトオーダーの抽選
種目における競技順の抽選は,あらかじめ無作為に行って明示するか,競技説明会のときに行うことができる.意見が対立して納まらないときはチーフジャッジが調整する.
- 競技フィールド
競技フィールドの境界線は下記を最小限度とし,より大きいことが望ましい.
チーム・ペア種目: 110x110m以上
個人デュアルライン種目: 90x90m以上
個人マルチライン種目: 75x75m以上
- ステージイン/アウト
競技フィールドにはステージイン/アウトのエリアを別々に設ける.ステージインエリアで待機し,フィールドインの合図を待つことは,競技者の義務である.
- イン/アウトのコール
規定競技:それぞれのコンパルソリー毎に,開始時にイン,終了時にアウトをコールする。また,テクニカルルーティーンあるいはリーグスタイルの開始,終了もイン/アウトコ−ルをする.
バレー競技:競技者は開始,終了時にイン/アウトコールを行ってもよいが,コールが無いときは,音楽の開始をもってイン,音楽の終了をもってアウトとみなす.
- 準備時間
次の競技者がフィールドインしたとき,FDは指示を与える.その指示からチームは5分,ペアは4分,個人は3分以内に競技を開始しなければならない.規定競技のコンパルソリーから次のコンパルソリーの間は45秒,コンパルソリーからテクニカルルーティーンまでの間は90秒以内に演技を開始すること.但しいずれの場合においても,FDからの演技開始許可が出る前に始めてはいけない.規定の時間が過ぎてもFDの開始許可の指示が無いときは,FDの開始許可の指示から45秒以内にスタ−トする.FDが開始許可を与えても競技者が規定時間内にスタートしてない場合はFDは彼らに代わってインコールを宣言しそれにしたがってジャッジは採点をする.
- バレー競技
バレー種目は音楽の解釈(interpretation)と特性付けられる.従って,大部分あるいは全く音楽無しの演技はバレーと見なされない.演技は2分以上でペア/チームは5分以内,個人は4分以内とする.
バレーの音楽:
曲の始まりの前に合図があるのは好ましい.音楽は,演技の為に作曲されたもの,編曲されたもの,あるいは既存のものなどである.音楽は完結した一つのものであることで,まったくぶつぶつ途切れた部分の寄せ集めではなくきちんと繋げられたものであること.もし,幾つかの曲を使う場合は一つの曲として印象付けられるように繋ぎ合わされねばならない.音楽は違和感なく(NATURALLY) 終了すべきで,制限時間に合わせるためにブッツリ切るような出し抜けな終わり方をすべきではない.
振付(CHOREOGRAPHY):
振付とは選んだ音楽に対する解釈,演出のことであり,曲の始めから終わりまでの一連の演技である.振付は,音楽と演技が密接な関係にある.ルーティーンは,ダイナミックさ,テンポ,リズム,オリジナリティ(スペクタル性(劇的さ,スリル感など)が重要ということではない),ムード,創造性,多様性などの音楽構成要素が変化(VARIATIONS---移り変わっていく様相)する状況を表現することである.
実行力(EXCUTION):
これは,競技者の飛行技術を評価するもので,ルーティーンの複雑性,大胆さ,技術的な難易度と共に,カイト飛行技術の正確さ,カイトの制御能力,タイミングの取り方(音楽との整合性,チ−ムではさらに他のメンバーの動作との一致),カイト間の距離の保ち方(チーム/ペア),ウィンドウィンドウの利用の仕方について採点する.
音楽の提出[Handing of music]:
テ−プまたはCDは競技説明会の間に提出する.音楽は頭出しをして見やすいラベルを貼ること.競技者は3曲まで提出することができるが,どの曲を使うかはフィールドに入るまでにFDに伝えねばならない.ライブ版(実況録音版)を受け付けるかはオーガナイザーとチーフジャッジの協議による.
- 規定競技
規定種目は競技者の技術レベルを試すものである.コンパルソリーとテクニカルルーティーンの順で行う.
コンパルソリーマヌーバー:
あらかじめ30日以上前に競技者に示した最大6つのマヌーバーの中から,大会当日にチーフジャッジが選んだ3つのマヌーバーで競技する.マヌーバー表や,大会要綱などに特記が無いかぎり,どちらの方向からマヌーバーを始めても良い.もし競技者がマヌーバー図と逆方向から始めたいなら,全てのマヌーバーを始める前にFDにその事を伝えなければならない.もし,それをせずに演技をやってしまったらそのコンパルソリーは0点になる.
テクニカルルーティーン(従来のフリースタイル)はペア・チームでは2分以上5分以内,個人では1分以上3分以内とする.競技者は自分の技術力を十分に表現できるルーティーンを行う.評価対象は,実行力(EXCUTION)と内容(CONTENT) に分けられる.
実行力(EXCUTION):正確さ,コントロール,タイミング,スペーシング,ウィンドウィンドウの活用,複雑性,技術の難しさ,マヌーバーの大胆さなど.
内容(CONTENT):テンポ,リズム,オリジナリティ(スペクタクル性(劇的・スリル感など)が必要ということではない),創造性,多様性など.
- リーグ形式規定
これは,規定競技の別のやり方である.競技者には大会の30日以上前に4つのコンパルソリーを示す.競技者は,これらのコンパルソリーを指示された順序で30秒以上4分以内のテクニカルルーティーンのなかに織り込む.コンパルソリー間のトランジッションは全体構成の流れが独創的に成るよう競技者は工夫する.
- 風速規定
競技者はレベル毎に,以下の風速でフライトするよう期待される.
レベル
|
最小
|
最大
|
ノービス
|
7kph= 1.94m/s
|
30kph= 8.3 m/s
|
マスター
|
4kph= 1.1 m/s
|
45kph=12.5 m/s
|
風速はkph表示が基本で,mphはその概略換算値である.他のレベルに対する規定値はそれぞれの団体(日本ではAJSKA)が決める.
- ウィンドチェック
インコールの前ではいつでもウィンドチェックを要求することができるが,ウィンドチェックに変わるルールあるいは指示があるときはそれに従うこと.FDは10秒間測定する.風速が規定外のときは競技者はインコールをしなくて良いが,範囲内ならインコールすること.
テクニカルルーティーンとバレーの開始後2分以内(個人規定におけるテクニカルルーティーンでは1分以内)では競技者はウィンドチェックを要求できるが,その間は演技を続けてなければならない.FDは10秒間測定し,規定範囲外のときは競技者は中止できるし,範囲内ならそう伝える.
FDより,風速が規定範囲内に戻ったことを伝えられた時から45秒以内に競技を開始しなければならない.
- 45秒規定
クラッシュで45秒以内にリラウンチできなかったときは演技終了と判断される.この規定は,チームあるいはペアの誰かがクラッシュし,その間に別のカイトがクラッシュしたときは最初のカイトがクラッシュしたときから45秒以内に全機がリラウンチしなければならない.
もし,最低演技時間以前(リ−グ形式では4つのコンパルソリーが終了する以前に)に45秒以内でリラウンチできなかった時は0点になる.その時間を過ぎたあとではペナルティが課せられる.(0点ではない)
- ヒート
ある種目で16以上の競技者がいる場合はヒート分けが望ましい.ヒートの数は,どのヒートの競技者数も15人を上回らぬように,また出来る限り各ヒートの人数が同じにする.チーフジャッジとオーガナイザーは決勝進出者数が15名を上回らぬように各ヒートからの決勝進出者数を最初に説明すること.
- 極端な天気
チーフジャッジは,天候に危険性や,風の強弱や雨,雷など不公平な種目があると感じたら,適切な処置を行うことができる.その処置とは,風速をアナウンスする,風速規定を変更する,大会を中止する,フィールドを拡大する,コンパルソリーの数を減らす,テクニカルルーティーンを削除する,などである.
その場合,チーフジャッジは緊急打ち合わせを招集して,競技者が置かれている状況を説明し,ルールや規定の変更事項について競技者が納得するように努める.
- 用具
競技者はその種目に適切で安全なら,どのようなカイトでも使用できる.
競技の最中にカイトの補修をしてもよいが,それには45秒ルールが適用される.切れたラインは取り替えること.結びなおして使うことは出来ない.
- ヘッドフォンなど
チーム・ペアで競技者が無線などを用いてもよいが,大会役員用や地域連絡網に使われているシステムに影響を与えず,地域の電波法などに違反しないものであること.
- 失格
失格を言い渡された場合,競技者は速やかにフィールドを出なければならない.その種目が終わった後に,どのような抗議や議論も交わされるべきである.
- ラウンチクルー
演技の間,個人競技の場合は2名まで,チームの場合はメンバーの数以内のラウンチクルーが許される.クルーは,用具が破損したときフィールドに持ち込んであるパーツで修理,交換して良い.が,競技がスタートしたあとで他の用具をフィールド内に持ち込むことはできない.
競技者にクルーがいない場合は,他の競技者がクルーとして協力する.クルーの割当方法は概要説明会で行う.
- ラインジャッジ
各種目には最低2名のラインジャッジを置く.
- ピットボス
競技者数や競技者の大会慣れの程度などの必要性に応じてビットボスをおく.
以上 |